閻連科『愉楽』

 発売前から話題で、中国版『異形の愛』だと聞いており、そりゃもうかなり楽しみにしていたのだけど、読んでみたら期待にたがわぬ面白さで度肝を抜かれた。

愉楽

愉楽

 

 レーニンの遺体を購入し、それを展示する記念館を建造して、観光の目玉にしようと企てている県長の男が、その計画の資金調達のため、障害者ばかりが住む「受活村」の異能の者たちを寄せ集め、絶技団を結成させ全国巡業を始めるが…というのがメインの話。また、本文の用語の註釈部分として「くどい話」というのが加わり、この「くどい話」の部分で「受活村」や登場人物たちが、社会主義革命で被った受難の歴史が語られる。

雪じゃ!うだるような夏の暑さに、人間様はただでさえ受活でないのに、雪が降った。しかも雪も雪、大暑雪だ。〈p.9〉

 冒頭からいきなりぶちかましております。因みに「くどい話」によると、「受活」っていうのは方言で、楽しむ、享受する、愉快だ、痛快でたまらないなどの意であり、また苦しい中でも楽しむという意味を暗に含んでいるとのこと。

片足猿の演目は断脚跳飛、つんぼは耳上爆発、片目は独眼穿針、下半身不随は葉上刺繍、めくらの桐花は聡耳聴音、小児麻痺は装脚瓶靴、おしは以心伝心だ。〈p.155〉

 物語自体はヘビーな内容で、読んでいて苦しくなることもあったけど、絶技団の演目や個性的な登場人物が面白くて否応なしに引き込まれてしまう。まさに「受活」でございます。それにしても、本書に渦巻く登場人物たちの喜び、怒り、哀しみ、怨みの感情は猛烈だった。影響を受けて、読んでいる間中ずっと脳内がぐおんぐおんとなっていた。

 「くどい話」という註釈部分もだけど、方言と標準語が入り交じる文体とか、奇数だけの章番号とか、動植物のモチーフとか、形式的にもこだわった書き方がされていて、内容は異なるけど阿部和重の『ピストルズ』を思い出した。ただ、その形式性によって自縄自縛に陥ることなく、想像力が存分に発揮されている点で、閻連科の力量が分かり、畏れ入った。

 閻連科って多作で、翻訳はまだまだ少ないので、今後どんどん訳されてほしいなあ。あと、キャサリン・ダンの『異形の愛』も復刊してもらいたいです。どうかお願いいたします。

 

【閻連科:受活,2004/谷川毅訳『愉楽』2014(河出書房新社)】