パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ ニ〇世紀史概説』

 白水社の《エクス・リブリス》から出た、チェコの作家、パトリク・オウジェドニークの『エウロペアナ』を読んだ。副題は〈二〇世紀史概説〉で、主にヨーロッパを中心とした20世紀の歴史が語られる。装幀にはガスマスクを装着した二人のドイツ軍兵士の間に同じくガスマスクを着けたラバが並んでいる写真が使われていて、とてもかわゆい。

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)

 

 20世紀といえば殺戮の世紀なのだけれども、陰惨なエピソードをいくつも列挙しつつ、語り口はどこか飄々としていて面白かった。普通の歴史書と違うのは、20世紀の出来事や発明を年代順に単線的に記述していくのではなく、時系列をバラバラにシャッフリングしながら語っていく点である。さらに文中に多分に伝聞や引用を含みながら、虚実入り交じるところがフィクショナルであった。66の断章形式で、全体がバラバラにならないように同じ記述を何度も繰り返したりしているのだけれど、それはちょっとくどいかな。それぞれのエピソード自体は初耳のものもあったりして興味深かったし、20世紀の歴史をこれほど凝縮してみせる手腕は見事だけど、小説的な情感がない淡々とした描写が連続するので、少し薄味だったなあ。

 

【Patrik Ouředník:Europeana. Stručné dějiny dvacátého věku,2001/阿部賢一・篠原琢訳『エウロペアナ 二〇世紀史概説』2014(白水社)】